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最近の研究紹介(有機化学研究室)「環境調和型付着阻害分子の開発研究」

記録日 : 2018年07月20日

 生物付着をご存知でしょうか。フジツボなどの海洋生物が、船底、海洋構造物、および漁網などに付着することです。これら付着生物は強力な固着力を持っており、一度付着すると除去するのに多大の労力と費用を要します。例えば、付着生物は船底に付着し、これにより海水との摩擦増加や船舶の重量増加が生じるため、推進効率が低下し燃費が格段に悪くなります。また、日本の臨海プラントの多くは、冷却水として海水を利用しています。付着生物は取水および排水系統内に付着し(図1)、取水量や冷却効率の低下を引き起こし、発電効率に悪影響を及ぼしています。

 

 1960年代以降、付着生物に対する防汚塗料として有機スズ化合物が多用されてきました。防汚剤であるトリブチルスズ基を持つ分子が自己研磨型塗料として働き、これが海水により加水分解を受け少しずつ溶出し、常に新たな塗料表面が海水に接することで機能を発揮しました。しかし、有機スズ化合物は多くの生物に対し強い毒性を示す問題点を持っており、1970年台に入るとこれによる環境被害が報告され始めました。具体例としては、貝類の成長阻害や巻き貝イボニシのオス化などです。そのため1980年代に入ると、防汚剤としての有機スズ化合物の使用が各国により規制されました。さらに2001年には、国際海事機関により「船舶についての有害な防汚方法の管理に関する国際条約」が採決され、有機スズ化合物の使用が世界的に禁止されました。そのため現在、効果的で安全、かつ毒性の無い環境に優しい付着阻害剤、いわゆる忌避物質の開発が社会的に強く求められています。私たちの研究室では、天然に存在する有機化合物を構造基盤とした新たな付着阻害剤の開発研究を行っています。

 

 天然由来のゲラニオールおよびブテノライドは付着阻害活性を示すことが知られています。私たちはこの2つの活性な構造モチーフをつなぎ合わせる、つまりハイブリッド化すればその活性を増強させることができるのではないかと考え、ハイブリッド有機分子を設計しました。設計した8つのハイブリッド分子を人工的に化学合成した後、タテジマフジツボの幼生に対する活性を評価しました(図2)。その結果、全てのハイブリッド分子がゲラニオールおよびブテノライド各々よりも強い付着阻害活性を示すことが分かりました(図3)。これは当初のもくろみ通り、2つの活性部位のハイブリッド化により、活性が向上したことを示す結果です。さらに、8つのハイブリッド分子のほとんどは低毒性もしくは無毒であることが分かりました。この結果よりこれらの分子は、フジツボに対し毒として働くわけではなく、忌避物質として機能することが明らかとなりました。今後は、これらの活性分子を用いて実海域でのフィールド試験を行い、防汚塗料としての実効性および持続性を検証する予定です。

 

 生命現象の理解や解明に化学の力で切り込んでいきたい、そう思いながら研究を行っています。

 

 

本研究内容は姫路エコテック株式会社との共同研究により得られた成果です。

 

発表論文:“Late-Stage Divergent Synthesis and Antifouling Activity of Geraniol–Butenolide Hybrid Molecules” Takamura, H.; Ohashi, T.; Kikuchi, T.; Endo, N.; Fukuda, Y.; Kadota, I. Org. Biomol. Chem. 2017, 15, 5549–5555.

 

図1. 取水路壁面での付着生物の様子

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図 2. タテジマフジツボの幼生に対する生物活性評価

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図3. 生物活性評価の結果

 

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