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疎水効果と疎水性相互作用

記録日 : 2019年05月27日 | 更新日 : 2019年05月28日

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(以下は,物理学会誌に掲載される解説記事の概要と同じです.)

「水と油」のたとえ通り,両者の相互溶解度は極めて低い.25℃の水に対するヘキサンの溶解度は12.4 mg/kg (疎水効果),ヘキサンに対する水の溶解度は90 mg/kgである(疎油効果).

さらに,水中の無極性分子間には分散力以上の引力相互作用(疎水性相互作用)が働く,とされている.このような疎水効果または疎水性相互作用は,水溶液中の両親媒性分子のミクロ構造体形成やタンパク質の天然構造安定性に不可欠な役割を果たすと考えられている.ところが,疎水効果と疎水性相互作用の特性と発現機構は十分整理,理解されているとは言い難い.ここでは3つの基本的問題に焦点を絞り,最近までの理論研究によって明確になった事柄を紹介する.

第一の問題は,疎水効果の微視的起源に関わる.巨視的には,疎水溶質が気相または油相から水相へ移行する過程は,エネルギー的に有利だが,エントロピー的に不利な過程である.この疎水効果の熱力学は微視的には水溶液のどのような特性に起因するのだろうか?

教科書にも記載されるほど有名な「氷山説」は,疎水分子周囲の水が氷状構造を形成することが原因だと主張する.しかし,最近の研究では,溶質分子が填(はま)る空孔が溶媒中に自発的に生成する確率の低さ(正の空孔形成自由エネルギー)が負のエントロピー変化の主要因であることが示されている.

それでは,溶媒としての水の特異性はどこにあるのだろうか?この疑問に答えるためには,溶媒和過程を定積過程および定圧過程の二種類で考え,水と通常の液体の溶媒和を比較するとよい.その結果,「4℃で密度最大」となる水の熱膨張性が重要な鍵であることがわかる.

第二の問題は,疎水性相互作用の評価に関わる.疎水性溶質の水への溶解度は極めて低いため,それらの分子間に働く有効ポテンシャルを実験によって評価することは極めて難しく,相互作用の強さの尺度である浸透第2ビリアル係数の実験値もほとんど存在しない.今のところ,典型的疎水分子間に働く疎水性相互作用の評価は理論計算に頼るほかはない.最近,メタン水溶液の分子シミュレーションにより,メタンの浸透第2ビリアル係数の高精度計算が行われた.その結果,疎水性相互作用は低温領域では実は斥力的であり,温度上昇とともに引力に変化することがわかった.

第三の問題は,疎水効果と疎水性相互作用の温度・圧力・塩濃度依存性に関わる.疎水性溶質の溶媒和自由エネルギー(溶解度の尺度)は,温度上昇,圧力印加,塩濃度上昇とともに,一般的に増大する(溶解度は低下する).しかし,それらのメカニズムが同一であるとは限らない.また,分子シミュレーションによる計算から,浸透第2ビリアル係数(疎水性相互作用の強さの尺度)も温度上昇,圧力印加,塩濃度上昇に伴い,引力が強まる方向に変化することが明らかになった.しかし,いかなる機構で引力が強まるのかは自明ではない.

最近,これらの応答機構を解明するためには,液体の平均場近似理論が極めて有用であることが示された[1].その結果,例えば,溶解度と疎水性相互作用の温度・圧力・塩濃度依存性の各々の機構が明らかになった.

 

甲賀研一郎
[1] K. Koga and N. Yamamoto, J. Phys. Chem. B, 122, 3655 (2018).

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