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最近の研究紹介(理論化学研究室)熱い氷を作るには?

記録日 : 2019年08月28日 | 更新日 : 2019年08月29日

理論化学研究室

水の凍る温度(凝固点)を変えるにはどうしたらいいでしょうか? 何も混ぜなければ、水を冷やすと0℃で氷になりますが、塩やアルコールを混ぜることで、凍る温度をもっと低くすることは簡単にできます。塩を混ぜても、塩水が凍る時には塩が吐きだされて真水の氷ができることを利用して、水を凍らせて海水を淡水化しよう、というアイデアもありますが、淡水を作りたい地域は一般に気温が高いため、0℃以下まで水を冷やすためのエネルギーが馬鹿にならず、実用化には至っていません。

では、凍る温度を0℃よりも高くするには? 例えば、水が凍る温度を15℃ぐらいにできれば、ほどよく冷たくて、しかも冷たさが長持ちする氷枕を作れます。淡水を作る場合もで、より高い温度で凍らせられれば、冷凍のためのエネルギーをずいぶん節約できます。でも、凍る温度を上げるのは、下げるのに比べてかなり難しいのです。

水の凍る温度を上げるためには、通常の氷(雪と同じ六角形)とは異なる結晶構造に凍らせる必要があります。例えば、7千気圧以上加えれば、氷の結晶構造が変化して融点が0℃よりも高くなります。また、加圧しながらメタンと水をいっしょに凍らせると、複雑な結晶構造をもつメタンハイドレートができて、その凍る温度は(圧力によっても変わりますが)0℃より少し高くなります。常圧で水に有機溶媒の一種のテトラヒドロフラン(THF)を混ぜた場合にも、凝固点は4℃ぐらいまで上昇し、臭化テトラブチルアンモニウムと呼ばれる物質を水に混ぜると、凝固点は10℃以上にまで上がります。いずれの場合も、結晶構造は普通の氷とは違ったものになります。

しかし、加圧するためには余分なエネルギーが必要ですし、毒性のあるテトラヒドロフランや臭化テトラブチルアンモニウムを使った場合には、それらを除去しなければ淡水として利用できません。水に混ぜ物をせずに、圧力も加えずに凝固点を高くする方法はないのでしょうか。

私たちの研究室では、氷の結晶構造がゼオライトと呼ばれる無機結晶の構造に似ていることに注目し、さまざまな新しい結晶構造の氷を作る方法を計算機シミュレーションで模索してきました。そのなかで、円筒状の空洞をもつ氷dtcが比較的安定であること、これをさらに安定にするには、空洞に何か別の分子を入れてやればよいことをつきとめました。カーボンナノチューブと呼ばれる、非常に細い針金状の分子を一定間隔でならべたナノブラシを作り、その間に水を流し入れると、水は氷dtcの構造に凍り、その凝固点は最高で50℃にもなることが計算機シミュレーションにより予測されました。

凝固点を越えると、ナノチューブの間に入った水は融けますが、ナノブラシ自体は固体なので、テトラヒドロフランや臭化テトラブチルアンモニウムのように水に溶けこむことはなく、簡単に淡水を得ることができます。また、ナノチューブの太さや間隔を調節することで、水の凍る温度を自由に調節できます。

本研究では、固体表面を使って、水の凝固点を高くできることを初めて示しました。今のところ、ナノブラシを精密に形成する技術がないのですぐには実用化できませんが、将来は温度を自由に設定できる保冷剤や、熱帯地方での海水の淡水化に役立つと考えられます。

図1 氷dtcの結晶構造。水分子を球で、水素結合を棒で表現している。

 

図2 ナノブラシの間で水が凍って生じた氷dtc。

Takuma Yagasaki, Masaru Yamasaki, Masakazu Matsumoto, and Hideki Tanaka
Formation of Hot Ice Caused by Carbon Nanobrushes
J. Chem. Phys. 151, 064702 (2019).

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