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最近の研究紹介 (錯体化学研究室)「スキャン速度に依存したスピンクロスオーバー挙動を示す鉄(II)錯体」

記録日 : 2019年01月28日 | 更新日 : 2019年02月06日 [NEW]

錯体化学研究室ウェブページ

典型元素上には特殊な場合を除いて不対電子は安定に存在しないが、遷移金属イオン上には不対電子が安定に存在できる。このうち、マンガン、鉄、コバルトの6配位八面体型金属錯体中では、条件により不対電子数が最大になる高スピン状態と、最小になる低スピン状態の二つが存在する。条件が合うと、温度、圧力、光などの外部刺激により高スピン状態と低スピン状態が可逆的に変化する現象が観測される。この現象をスピンクロスオーバー現象という。

スピンクロスオーバー現象をは主に磁化率の温度変化の測定で確認するが、鉄(II)錯体の場合には、高スピン状態と低スピン状態の割合を求めることができるためメスバウアースペクトルの測定もよく用いられる。スピンクロスオーバー錯体を室温から5~10 K程度の極低温へと急激に冷却すると、室温での高スピン状態がそのまま凍結される現象(凍結効果)が知られているので、磁化率測定を行う場合にが通常1 K min−1前後の温度スキャン速度で測定を行い、異なるスキャン速度での測定結果は通常一致する。一方メスバウアースペクトルは温度一点一点での測定に時間がかかるため、その結果は事実上磁化率測定のスキャン速度を無限大に遅くしたものと考えて差し支えないが、通常は1 K min−1前後の温度スキャン速度での磁化率測定の結果とよく一致する。

ところが、近年上述の温度スキャン速度でスキャン速度に依存するスピンクロスオーバー挙動を示す錯体が見つかる様になってきた。[1] 我々の研究室でも熊本大学との共同研究で、配位子HLn-Pr (図A) の鉄(II)錯体 [FeII(HLn-Pr)3]Cl PF6 がスキャン速度に依存したスピンクロスオーバー挙動を示すことを見出した。この錯体はメタノール中から再結晶した場合[2]とエタノールから再結晶した場合[3]で、組成は同じでありながら、異なる結晶構造を有する。このような現象は結晶多形というが、どちらの多形も温度スキャン速度に依存したスピンクロスオーバー挙動(図B)を示した。これらの多形の結晶構造を様々な温度で慎重に決定した結果、いずれの多型中でも結晶中でスピンクロスオーバー挙動に伴う配位子上のプロピル基の動き(図C)が観測された。このような固体中での分子の動きは、通常のスピンクロスオーバー錯体の磁化率測定の温度スキャン速度よりも遅いタイムスケールで起こるため、スキャン速度依存のスピンクロスオーバー挙動が観測されたと結論づけた。

図. A) 配位子HLn-Prの分子構造、B) [FeII(HLn-Pr)3]Cl PF6磁化率の温度スキャン速度依存のスピンクロスオーバー挙動、C) 110 K(左)と95 K(右)での[FeII(HLn-Pr)3]Cl PF6の分子構造。

[1] “Spin crossover with thermal hysteresis: practicalities and lessons learnt”, S. Brooker, Chem. Soc. Rev., 2015, 44, 2880−2892.

[2] “Scan Rate Dependent Spin Crossover Iron(II) Complex with Two Different Relaxations and Thermal Hysteresis fac-[FeII(HLn-Pr)3]Cl PF6 (HLn-Pr = 2‑Methylimidazol-4-yl-methylideneamino‑n‑propyl)”, T. Fujinami, K. Nishi, D. Hamada, K. Murakami, N. Matsumoto, S. Iijima, M. Kojima, and Y. Sunatsuki, Inorg. Chem. 2015, 54, 7291−7300.

[3] “Polymorphs of spin-crossover iron(II) complex fac-[FeII(HLn-Pr)3]Cl PF6 (HLn-Pr = 2-methylimidazol-4-yl-methylideneamino-n-propyl):Assembly structures and scan rate dependent spin-crossover properties with thermal hysteresis”, T. Ueno, Y. Ii, T. Fujinami, N. Matsumoto, S. Iijima, Y. Sunatsuki, Polyhedron 2017, 136, 13–22.

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